interview / 深川硝子工芸 代表 出口健太
photo / 菅原一剛

グラスの自然な表情が支持されるまで

自動車ガラスをグラスに

使用済み自動車1台から回収できる窓ガラスの量は、平均で約20kgと言われています。日本では、使用済み自動車の引取台数が近年およそ300万台前後で推移しており、年間で回収可能な窓ガラスは数千万kg規模にのぼります。

しかし、これらの窓ガラスの多くは、グラスウールなど一部の用途を除き、現在も埋め立て処分されているのが実情です。ガラスは自然環境下ではほとんど分解されず、長い時間を経ても土に還ることはありません。このような特性から、埋め立て処分に頼り続けることには限界があります。

マテックは、このような背景を持つ自動車ガラスに着目し、アップサイクル製品として活用することで、再利用の新たな道筋をつくりたいと考えています。埋め立て処分される自動車ガラスを少しでも減らすことが、その取り組みの目的です。

自動車ガラスの新たな活用方法を模索する中で、私たちは小樽切子で知られる株式会社深川硝子工芸と出会いました。同社は、温もりや自然の風合いを大切にしたガラス製品の製造・販売を行い、これまでに幅広い購買層を開拓してきた企業です。 

また、その高い技術力と表現力は評価が高く、国内外の著名企業からOEMの依頼を受けるなど、多方面で実績を重ねています。 

  • 自動車の窓ガラスで作られたグラス

ゼロからのスタート

深川硝子工芸は1906年、東京都深川区で創業しました。同地域は江戸期から運河が張り巡らされ、木材を中心とする物流拠点として栄え、世界でも大都市として発展する江戸を資材面から支えた歴史があります。その同社は2003年、北海道開拓の貿易港として道都・札幌の建設と発展を支えるなど、深川区と共通する歴史的役割を担ってきた運河のまち・小樽に工場を新設し、工芸用ガラス製品の製造を開始しました。 2000年代初頭、日本国内では環境問題への関心が高まり、二酸化炭素排出量削減に向けたさまざまな取り組みが進められていました。こうした時代背景のもと、同工場には融雪水循環システムや排熱利用システムが導入され、環境への配慮を取り入れた工場として整備されています。

環境の負荷軽減を資源循環という方向から実現を目指すマテックとのコラボを、まるで予見していたかのような工場を舞台に、自動車ガラスのアップサイクルが始まりました。出口健太代表取締役はプロジェクト始動当初の模様を次のように語ります。

「ガラス細工で最も重要な工程のひとつは“調合設計”です。加工に適したガラスの粘性や固化までの時間などを原料や添加物の配合率によって決めるもので、どの工房も設計に基づいて注文した原料を用いてガラス細工を行います。しかしマテックさんの原料に調合設計するとアップサイクルではなくなるので、そのまま使用することになります。どのような性質を持ったガラスなのかは釜で溶かすまで誰も分かりません。したがって、今回のリサイクルプロジェクトに関しては、ガラス屋として蓄積してきた経験や技術を生かすことができず、ほぼゼロからのスタートになりました」

“薄く吹く” ことが出来るようになる

自動車ガラスは、プラスチックや金属など異物を丁寧に除去したうえで、ガラスカレットと呼ばれる原料に再生されます。このガラスカレットを溶かして得られたガラスは、粘性が高く、固化までの時間が短いという特性を持っていました。そのため、職人さんがこのガラスに慣れるまで長い時間が必要なことが分かり、まずはお猪口、ロックグラスなど様々な形のガラス製品を試作して、この素材に適した技術の習得に努めると同時に、出口代表取締役を筆頭に社員がマテック工場を訪問し、リサイクル現場で何が行われているかを理解することにも努めました。

「工場内の環境は非常に清潔で、気軽に挨拶してくれるなど社員さんたちの表情は明るく、仕事場の雰囲気の良さに感心しました。訪問するたびに両方の社員が打ち解け、距離感がどんどん縮まっていくのを感じました」

  • 使用済み自動車の窓ガラスを手作業で回収

  • ガラス製品の原料となるガラスカレット

ガラスを扱う職人さんの技術も着実に向上し、最後の壁となっていた“ガラスを薄く吹く”ことが可能になり、商品開発がようやく本格的に動き出しました。 

「飲み口の薄いグラスをつくり、自社製品として製作・販売することも目指していたので、その目標に到達できる確かな感触を得ることができてホッとしました」 

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気泡は自動車ガラスの自然な表情

基幹商品である小樽切子は、まずクリスタルグラスを作り、気泡を除去した後、ダイヤモンドホイールで伝統の紋様やオリジナル図柄をカットします。

「紋様のカット前までは今回のグラスも同じ工程です。商品の価格帯や売り方を変えることで両者の共存が可能だと考えました。ただ、自動車ガラスの自然な感じをお客様がどこまで許容してくれるか、そこが悩みどころでした」

例えば、切子では許されない気泡をこのグラスでは認めるのか、除泡剤で取り除くべきかという問題がありました。
調合剤の投入はリサイクル率を下げるため、職人と相談して気泡を自動車グラスの特徴とすることにしました。

「どのくらいクレームが寄せられるか心配していましたが、現在までありません。結局、気泡の有無はガラス屋が心配していただけで、お客様はグラスの自然な表情として支持してくれたのです。自動車ガラスから生まれたグラスの製作により社内の意識も変化してきました。これまでは少しでも傷つくと廃棄処分にしてきた高価格な商品でも今後は手を加え、新たなリサイクル商品として販売することを検討しています。また、交流ある企業とリサイクルプロジェクトを共有し、再生ガラスの製品づくりの拡大にも取り組んでいます」